Re:ヤミから始める砂漠生活
「ねぇ?
この旅が終わった時、キミは何処に行くの?
何処へ…還るの?」
私は、まるで独り言のように呟いた。
いえ…、周りの人間にしてみたら、本当に独り言なのだけど。
『何処に行くか、何処へ還るか…か?
クク、何処でもいいさ。
辿り着いたその先で、オマエがオレを楽しませてくれるならな?』
想像した通りのままの答えが返ってくる。
期待を裏切ることのない、キミの言葉。
そういうところが、本当に…。
本当に。
「ねぇ?」
『おい、どうしたんだ?
今日は、やけにお喋りじゃないか。
そんなにオレのことが好きか?』
ええ、そうね。
キミのことが、こんなにも。
「…ずっと、一緒にいたいよ」
この旅が終わる、それが意味すること。
それは即ち、キミとの別れが来るということ。
キミといる意味が、キミといる理由が、なくなってしまうなんて。
そんなの、嫌だよ。
「キミと、一緒に」
『そうだな、クク!
オマエはオレが見込んだ人間だけあってなかなか面白い奴だから、オレにとっても悪くはない選択だな!』
そう、私は人間。
私の命はいつの日か尽きて、肉体は滅びを迎えてしまう。
キミは未来永劫変わらぬ姿で、永遠に生き続けるのに。
なんて、不公平なのだろう。
私もキミと同じになりたい。
そうして、永い、永い時…、魂を共にして、生きていたい。
「だから、お願いがあるの」
溢れそうな涙を堪えて、震える唇を噛みしめて。
ようやく、私は声を絞り出した。
『まぁ、他ならぬオマエの頼みなら、聞いてやってもいいぞ?』
うん、やっぱりね。
キミならそう言ってくれるって、信じていたよ?
「私の身体を、キミにあげたい」
いつかジョルダイン卿が、禁忌とされた闇に触れ、それに魂ごと取り込まれてしまったように。
「私も、キミに触れたい」
そして、キミとひとつの存在になりたいの。
『つまり、オマエがオレになって、オレがオマエになるってことか』
キミは、本当によく解ってるね。
もう口に出さなくても、私の考えていることは、何もかも汲み取ってくれるんだろうな。
そうだよ、と言おうとしたけれど、もう言葉にはならなかった。
嗚咽しそうになるのを、懸命に耐える。
代わりに私は、精一杯の笑顔で頷く。
『クク!オマエ自らジョルダインの二の舞志願か?』
「ふふっ…ホント可笑しいよね、こんなこと!」
『悪くない話だ!試してみるか?』
受け入れてはもらえないだろう。
冗談はほどほどにしろよ、と笑い話にされるだけだと思った。
だから、私は思わず目を丸くした。
「え…?今、なんて…?」
『人間てやつは、何かと不便な生き物だからな。そうじゃなくても人間は気に食わないが、オマエは特別だからな!だから、オマエとならやってみてもいいぞ?』
大きく見開いた眼に映る、漆黒よりも深い闇色の中の紅が、妖しげに渦巻く。まるで私を誘うかのように、ゆらゆらと揺らめきながら。
『さぁ…オレに触れてみろ』
それはいつもとなんら変わらない、キミそのものの口調。でも、どことなく優しさを滲ませているような、気が、した。
『初めては…怖いだろうな。想像を絶するような痛みを味わうかもしれないぞ?』
靄のように実体の無いキミが、震える指先に絡みついてきた。直後、まるでそこから電流を通されたかのように、何かが身体中をびりびりと駆け巡った。肺を鷲掴みされているかのように息苦しい。四肢が引きちぎられるように痛む。大量の虫が蠢いているのではないかと錯覚するほど、背筋がざわざわする。
『だが、心配はいらない。恐怖も苦痛も一瞬だ。すぐに…快楽に変わるさ』
刹那、走馬灯のように何千という景色が脳裏に過ぎった。
これはーキミのー記憶ー?
見慣れぬ水辺の街、数多に連なる山脈、青々と緑が生い茂る森、黄金色に染まる朝焼けの海、星の煌めきに彩られた夜空、そしてー。天までも届きそうな程に高く高く聳え立つ、円柱の塔。
どこまでも渇いた砂埃が舞い、立ち昇る陽炎が視界を揺らめかせているー。
数えきれない時間
いつも静かな砂漠の真ん中で
ずっと独りだった。
でもそれが当たり前だった。
寂しい?悲しい?苦しい?
そんな感情はとうの昔に失くしていた。
どうして?嗚呼、どうして?
痛いーイタイー心がーココロがイタイー
熱いーアツイー目の奥がーオクがアツイー
此処が何処なのか 自分が誰なのかさえ
解らなくなる時でも
ある時、何かのきっかけで、永い眠りから目覚めた。
完成されていない楽園 人間の大地
完成させなければ
これはーキミの見てきたー世界。
これがーニンゲンの棲むー世界。
我 々 と 共 鳴 す る 者 よ
嗚呼、偶然なんかじゃなかったんだ。
私とキミは運命に導かれ、巡り会った。
私はキミに選ばれたんだ。
何万といる人間の中のたったひとりになれた。キミだけの私に。
どこまでもー昂って止まないー嗚呼
何だーこれはーヒヒッ
嬉しい?楽しい?嗚呼ー嗚呼ー私、は
身体も精神も満たされて、ふわふわと宙に浮いているような感覚に囚われている。
キミのナカは、なんて居心地がいいの。
ずっとこうしてー全身でキミを、キミだけをー感じていたいよ。
奥でーもっと、もっと、奥で、イかせてー
ーーーキミとひとつにーーー
漣の如く押し寄せる快楽に抗うこともせず、ただただその身を委ねながら、私は「私」であるという意識を、そっと、手放したーーー。
たったひとつだけ 忘れないことがあった
私達が共にした日々を覚えてる?
ふと、誰かに呼ばれた気がした。
それは、自分の名前なのか?
そうかも知れないし、或いは違うかも知れない。
暗闇の中に堕ちていた意識が、薄らと現実の世界へと引き戻されてくる。
目蓋の裏が、やたらと眩しい。少ししょっぱい風が、鼻腔を擽るように吹き抜けていく。
ざらざらとした砂を掴む感覚。どこからか聴こえてくる波の音。
此処は…何処かの浜辺…?
そうか。ここは、始まりの海。
そうだ。ここで、「オレ」は。
ーーーオマエとひとつにーーー
大丈夫
失くした記憶は 新しく埋めれるから
私達の約束は 永遠だから
\☆黒い砂漠モバイル一周年☆/
/☆★☆おめでとうございます☆★☆\
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